まわり道の理由

2013 0627 leitzminolta cl voigtlander uwh presto 400 014

理由も無く出発したのだから撮るものにだって理由なんていらない。

電車から降りたら持ちだしたカメラを首からかける。撮りたいものをすぐに撮る為にカメラは肩から斜めがけにすることが多い。ガンマンがリボルバーを抜くように僕は被写体を打ち抜くんだ。
そんな気持ちで胸はいっぱいだけれど大抵すぐには何も撮らない。
自分の気持ちが高揚していくのに合わせてシャッターを切る指も滑らかになることを知っているからだ。

適当な場所に降り立つとそこには様々な風景が広がっている。
遠く山道が続く知らない土地でも、良く使う路線の馴染の駅だったとしても、僕にとってそこはこれから始まる何かのスタート地点であることには変わらない。

さて、何を目指そう?
何も目指さなくていいだろう。

理由のない散歩に理由をつける必要なんてないからだ。理由のない散歩に理由がついてしまった時に僕は自由を失う気がして怖くなる。

とりあえず北に行こう。方角位決めたって自由はなくならない。

あの広場はなんだろう、あの高い木は?
人が歩いている付いていこう、ネコさんこんにちは気分はどうですか?

あっと言う間に知らない場所に到着した。川がある、これに沿って歩けばいつか大きな川に着くかもしれない。大きな川に着いたら水が流れる方に向かえばきっと海に出られるはずだ。

太陽が木立の中から顔を出した。
川からは道が外れてしまうけれど、あっちの方に行ってみたい。
そこからは陽の光に向かって歩き出した。坂道だ。

坂道の始まりには小さなお地蔵様としおしおと枯れた紫陽花。
石壁の間からはちょろちょろと水が流れている、鳥居が見えてきた何があるんだろう?
坂道の勾配が急になってくる、遠くから子供の声が聞こえる。
何か騒いでる声、これは自転車に乗っている声。
スピードは?今の太陽は?さっきの鳥居、壁から流れる水、緩やかに動く雲、太陽が作る影!
陽の光が強くなってきた、子供の声も近付いてくる。少し絞ろう。シャッターの速度を上げよう。
こうすればきっと、僕のまわり道の理由がフィルムに焼きつくだろう。