迷い道

2013 0912 leica3f summar50 arista400 d76 020

汗を拭うハンカチを頻繁に出さなくて良くなると夜の帳が下がるスピードも一段と早く感じる。
三十六枚撮りのフィルムがちょうど無くなった時、カメラの代わりにグラスにするかそれともこの先のドラマを期待してまた歩きだすか。あまり気分が乗らない時や上手く行かなかった時は駅前の暖簾を潜るのが常だけれど、昼過ぎから歩き始めて二駅目を過ぎた辺りから今日はなんだか冴えているなと感じたから今日は徹底的に撮ろうと決めていた。

辺りは一段と暗くなってきた。
明るい茶褐色だった空は一瞬赤くなったかと思うと途端に夜の色に変わり、甘くとろんとした光がまあるい電燈から漏れ始める。次のフィルムをカメラにつめた僕はキョロキョロと辺りを見回した。
下校する小学生が足早に走り去る、中学生らしき制服の女子達は信号が青になったのにも気がつかずにまだおしゃべりをしている。遠くには車の音、まだ動いている工場の機会がシャーシャーと音を立てている。

見たものを一つずつカメラに収めて行くと手回し式のダイヤルが「35」の位置になっていた。
閉じかけた工場のシャッターの中に積んであった何かを撮って今日はこの辺にしておこうとカメラをしまいかけた時、自宅からはそう遠くないはずなのに見慣れない場所にいることに気がついた。
それだけ夢中になってたんだなと呆れながら鞄の中の地図を半分引っ張り出した所でそれを元に戻した。きっと迷い道でもそのうちに家に着く気がしたから、もう一度カメラを肩から下げた。