隣の車輌

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僕の隣のあの車輌がほんの少しだけ未来を走っているとしたら、その車輌の先頭には僕がいて今シャッターから指を離したに違いない。
恐らく考え事をしている彼女は前の車輌でも考え事をしていて、次の車輌でもその次の車輌でも忙しそう頭を振っているんだろう。
それをなんとなく見ていた僕は、過去でも未来でもない今この車輌でフィルムを一枚巻きあげた。
車輌が揺れる音しかしない地下鉄。
アナウンスが鳴り、次第にスピードを緩めた車輌はスルスルとホームの傍を滑りはじめる。
車輌と一緒に彼女の頭も動かなくなったようだ。

停車した電車から降りる彼女に「考え事がまとまっていますように」と心の中で唱えみた。
僕の隣のあの車輌には今誰もいなくなった。
先頭に乗っている僕は少しだけ未来に何をしているだろう。